安次富 浩

  • 兵庫県警察本部
    刑事部 組織犯罪対策局 組織犯罪対策課 国際捜査室
  • 警察庁指定広域技能指導官(国際捜査) 課長補佐 警部
  • 安次富 浩
  • 1987年 外国語学部 スペイン語学科 卒業
安次富 浩

2つの目標達成に向けて頑張った多忙極まる学生生活

 元々、教職を志望していましたので、在学中は教職免許の取得とフルスカラシップのスペイン留学を目標に頑張りました。教職課程では、スペイン語と英語の両方の教員免許を同時に取得する必要があり、そのための授業も多かったのですが、何とか4年間で2つとも目標を達成することが出来ました。バイトをしながら吹奏楽部にも入って活動していましたので、とにかく忙しい学生生活でした。

 吹奏楽部では、生涯にわたっての無二の親友を得ることが出来、また、部の仲間たちと深夜まで飲んで色々と語り合った思い出などは、私の人生の珠玉の宝物として心にしまっています。折に触れて、思い出して懐かしんでいます。部活動では、演奏会やコンクールなど共通の目標に向かって、部のみんなが力を合わせて行動することを経験し、また、その運営の一端に携わったことが、部下を率いる今の仕事にも役立っています。

留学先で会得した、いい意味での「開き直り」力や「出たとこ勝負」力

 留学してからの最初の1ヶ月間ぐらいは、先生のスペイン語をほとんど聞き取ることが出来ませんでした。授業は、先生が一方的に話す内容を筆記する形式でしたので、私はほとんど筆記することが出来なかったのです。「このままでは試験で何も書けない。どうしよう…」とますます焦りが募り、さらにホームシックも加わって、「日本に帰りたいな…」と真剣に悩んで落ち込みました。

 その頃、学校主催の日帰りエクスカーションがあり、それに私も参加したのですが、その帰り道のこと、バスの車窓からぼんやりと外の景色を眺めていると、広い地平線に沈む夕日が大きく見えたのです。日本では滅多に見られない光景に、最初は「きれいだな」ぐらいしか思っていなかったのですが、段々「この太陽は、また明日も昇る。地球上で何があっても明日必ず昇る。大自然ってすごいな。それに引き替え、一人の人間なんて小さな存在やな…」「そうか、俺がここで留学に失敗して日本に帰っても、また、日は昇る。」と。なんだか自分が悩んでいることが、すごくちっぽけなことに思えて、それならば「あかんかったら、帰ったらええか。とりあえず、このままいってみるか。」と開き直ってしまったのです。

 それから、変な緊張が解けたのか、それまで理解できない音の連続であった先生の言葉が、少しづつわかるようになってきたのです。たまたま、そんな時期だったのかもしれませんが、今でもその時の不思議な感覚は忘れられません。この経験を経て、少々困難な場面に出くわしても、いい意味での「開き直り」力や「出たとこ勝負」力が付いたように思います。
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警察官という仕事との出合い

 卒業後、中堅ゼネコンに一度就職して海外事業部で勤務しましたが、1年少しで退職。それからスペインに渡り、リゾート地であるスペイン南部マラガ県マルベーヤ市にある不動産会社に1年間勤務し、一度帰国しました。その後、知人の紹介でバルセロナオリンピックの開催年にマドリッドで開店する和食店の店長候補として兵庫県内の食品会社に入社。神戸の和食店で1年間マネージャーの修行を積んだ後、スペインに渡り1年間店長として勤務しました。帰国後は同社で営業職を続けながら、以前から志望していた教職関係の就職を目指していましたが、ちょうど兵庫県警がスペイン語担当の警察官を募集していることを知り、採用試験を受けてみようと思ったのが、現在の仕事との出合いです。

正直、以前から警察官になる強い意志があったわけではないのですが、スペイン語に携われる仕事であったことはもちろん、採用時の面接で「刑事として仕事をしてもらう」という面接官の一言を聞いてから、多少の不安はあったものの「よし、やってみよう」という気持ちになりました。
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警察官として仕事をする覚悟

 警察官になって今年で24年目になりますが、いわゆる「ショカツ(警察署)」の刑事としても6年間勤務し、事件捜査の経験を積みながら、県警本部で国際捜査の刑事としての勤務も重ね、今まで、中国人による拳銃を使った連続強盗事件やベトナム人による14府県にまたがる広域窃盗事件などの捜査に従事しました。
 現在は外国人犯罪の事件捜査の他、警察庁指定広域技能指導官として警察学校での講義などを通じて後進の育成にあたっています。ただ、大きく印象に残っているのは、平成7年1月、警察官になって約2週間後に発生した「阪神淡路大震災」での活動です。警察官としての知識経験がほぼ皆無のなか、現場活動にいきなり従事し、とにかく必死でした。地震発生直後は、本署が倒壊した兵庫警察署に派遣され、倒壊を免れた別棟を拠点としての活動をしていたのですが、余震の度に、揺れる建物から走って出て避難し、命の危険を感じました。今振り返れば、それまで漠然としていた「警察官として仕事をする覚悟」が、この活動で出来たと思います。
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ハードながらも充実した日々

 どのような仕事も同じですが、警察官の仕事も楽ではありません。特に刑事は、昼夜を問わない捜査活動もしばしばで、事件によっては家に帰れない日が続いたりもします。しかし、犯人を逮捕し被害者の無念に少しでも報いることが出来たり、法律を駆使して犯罪組織を追い詰めたりすることが出来るもの警察だからこそです。私は、そこに強いやり甲斐と誇りを感じ、ハードながらも充実した日々を送っています。

掲載:2018年7月
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