前田 英樹

  • SEICO Inc.
    株式会社SEICO
  • 代表取締役
  • 前田 英樹
  • 1992年 外国語学部 英米語学科 卒業
前田 英樹

留学生との交流機会を活用しないなんて「もったいない」

 大学在学中に留学することは入学時からの目標でしたので、クラブやサークル活動にはあえて参加せず、空き時間をすべてアルバイトに費やし、必死にお金を貯めました。同時に、授業を欠席することももったいなく、遅刻もせずに真面目に出席していたのを覚えています。

 外大へ来る留学生が主に学ぶ留学生別科が当時からありましたが、日本人は学部で日本人同士、留学生は別科で留学生同士でしか授業を受けられないことを変に思い、事務局へ頻繁に問い合わせました。今では双方の交流がかなり盛んに行われていると聞きますが、当時はがんばらないとほとんど交流がない状況。日本の大学に通いながらプチ留学的なことが学内で体感できる最適な環境があるのに、それを生かせないのはもったいなく感じました。最終的には、目標であった交換留学に合格し、それの準備条件として留学生別科での授業を受ける結果となりました。留学に関心がない学生でも、留学生と交流する機会がもっとあれば良かったのに、と今は思いますね。

ニューヨーク州立大学への一年間の留学

 留学中は大学の寮で暮らしました。二人部屋を割り当てられましたが、ルームメートはアメリカ在住の、いわゆる在米韓国人でした。生まれも育ちもニューヨークという彼とは、出会ったその日から意見の食い違いの連続。毎晩のように議論、最終的には夜寝る直前まで「いや、あんたが間違っている。」「続きはまた明日、おやすみ。」といった感じでした。「日本人はここが悪い。」や「お前はなぜアメリカ人としか付き合わないのか。」など、同じアジア人としての彼らのフラストレーションはかなりのものがありました。個人に対する意見ではなく、アジア人というコミュニティの中における日本人としての立ち位置、アイデンティティを持ってもらいたい、ということから出た指摘でしたが、彼や彼の友人たちははっきり「アジアン・アメリカン」としてのアイデンティティを持っていました。とにかく議論続きの毎日でした。

金融業界から語学教育界への転身

 大学卒業と同時に、住友銀行(現・三井住友銀行)に就職しました。同期入社の400人強と共に一ヶ月の集団生活・研修を受けた後、大阪市内の支店に配属されました。営業・融資・外為業務に携わり、いわゆる「外回り」の営業活動も行いました。主に市内の中小企業への融資支援や外国為替取引を担当しながら、4年目には転職活動を開始。当初は、3年程度で学べるだけのこと学び、転職して次に生かせればと思いながら過ごしていました。

 結局、5年勤めた後、今の会社の前身である語学教育専門学校への転職を以て語学教育界へ転身しました。初めは一般個人を対象にした教室運営の業務が中心でしたが、少しずつ法人を相手に契約をとり、業務を拡大していきました。同時に、「学校」としての業務範囲に限界を感じるようになり、2005年に今の会社を設立し、代表取締役に就任しました。現在は、一般個人客への業務を継続しつつ、一般企業、教育機関の語学教育支援業務に従事。他に、通訳、翻訳、英文校正業務も請け負っています。

言葉の壁には本来の「訳」としての壁以外に数倍高い壁がある

 代表とはいえ、まだまだ小体の企業です。そのため、自分も営業担当として、はたまた通訳や講師としてクライアント様へ出向く毎日です。また、現在、所属しているスタッフの8割は英語圏出身者であり、彼らと接する上での「新発見」は毎日のようにあります。

 エピソードといえばいくらでもありますが、中でも印象深いのは、映画俳優のキアヌ・リーブズ氏に通訳として同行した時のことです。映画のプロモーションで来日し、東京での活動の合間に一日だけ大阪へ来られることになったのですが、当日は、大阪府知事に就任したばかりの橋本徹氏を表敬訪問した後、数か所の映画館での舞台挨拶が控えているという過密なスケジュール。東京からは字幕翻訳家として有名な方も大阪へ来られましたが、その方はカメラが回っている前での通訳。僕はオフカメラの通訳を依頼されたわけです。

 車での移動中、キアヌ氏が「少しおなかがすいた。」と言い出したので、それを僕が映画会社スタッフに伝えますが、本人は好物のラーメンを食べに行けることを期待したのに対し、映画会社がとった行動は北新地にある高級ステーキ店を2時間貸切で押さえることでした。「ステーキならいつでも食べられる!」というキアヌ氏の意見は無視され、高級ステーキランチとなったわけですが、このあたりは日本側の「もてなし」「気遣い」が作用していたのに対し、相手はそのように受けていない、という両者の思いに大きなギャップがありました。その全てを僕からキアヌ氏に伝えるわけですが、言葉には従来の「訳」としての壁以外に、「背景」という高い壁があることを実感しました。

真の意味でのグローバリズムと向き合う

 日本で育つ人は誰しも 学校で「英語」という科目を通して英語に接する機会を与えられます。しかし、その身についたはずの英語を使いこなせる人が限られているのはなぜか、という疑問をずっと持ちながら日々業務に携わっています。

 外国人の職員と日々接し、日本のあらゆることについて説明する中で、言葉以外の壁の存在がいかに大きいかということも実感しています。キアヌ氏のエピソードにもありますように、日本語にあって英語には存在しない「要素」は沢山あります。でも、それらが日本語特有のものであることを日本人自身が意識しないため、それらの「要素」を含めた状態で英語に変換します。それでは、本当に伝えたいことは伝わらないですね。

 日本人は、英語力を身につける以前に、日本或いは日本語の特異性、特質を掴むことでしょう。分かっているようで分かっていない自分たちの文化、歴史、伝統を意識し、それらを円滑に伝えること、また、感覚や精神論、または、(日本特有の)常識だけで物事に取り組むのではなく、すべての事柄には理由が存在することを意識、すなわちもっと論理的な思考を持つことを、授業やセミナー活動を通して伝えています。当面のビジョンは、真の意味でのグローバリズムと向き合える日本人を輩出するための支援業務を更に拡大することです。
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英語力を身につけること以上に日本語力を磨くことが重要

 語学教育業に携わる多くの方が、「英語が好きだから」的な理由がきっかけだと言います。きっかけとしては悪くはないでしょうが、本職にするのには弱いかも知れません。そうした自己満足ではなく、英語を自在に操ることができるクライアント様を一人でも多く輩出するくらいの意識がないと、「好き」というだけでは厳しいでしょう。英語はこれまでも、そしてこれからも必要な知識、言語であると強く感じています。それだけに、重要なのは日本語力を磨くことだと認識しています。だからこそ、真にグローバルに活躍できる日本人を輩出すべく教育に携わっていただきたいと願っています。