グリーン裕美

  • フリーランス 会議通訳 グリンズアカデミー運営
    英国 ロンドンメトロポリタン大学大学院 会議通訳科非常勤講師
  • グリーン裕美
  • 1991年 外国語学部 英米語学科 卒業
グリーン裕美

さまざまな出会いに恵まれた清水寺でのボランティア通訳

 とにかく英語が話せるようになりたくて関西外大の英米語学科に入ったので、在学中はその目的が果たせられるように必死にがんばりました。留学生として選ばれるように努力をした結果、その機会を与えられたことに非常に感謝しています。留学までの準備期間はアメリカでの生活について学び、留学中は良い成績をとれるようベストを尽くしました。その甲斐もあり、卒業時は「なんとか英語が話せる」と言えるレベルには達することができたと思います。

 学生時代は通訳ガイドクラブ(IGC)に所属し、通訳ガイドに必要なスキルや知識を学びました。 IGCでは、日本文化や神社仏閣を英語で説明できるように知識を高め、語彙力を身に付けるとともに、コミュニケーションに必要なスキルも学びます。6月頃だったと思いますが、ある日曜日に他の部員と共に清水寺で、個人で観光している話かけやすい雰囲気をもった外国人観光客に勇気を出して話しかけました。「ボランティア通訳」と聞いて、中には怪しげに思われて断られたこともありましたが、たいていは喜んで受けて入れもらえました。日本独特の文化についての説明は難しく、当時の英語力の問題もあって全てが通じたわけではありませんが、お礼にアイスクリームをごちそうしていただいたときは、涙が出るほど嬉しかったです!

 また、ボランティア通訳の中でも特に印象に残るハイライトは、アメリカ人のご夫婦に清水寺の案内をして喜んでいただき、その後、アリゾナ州立大学留学中に、そのご夫婦に改めて再会できたことです。

留学先で出会ったルームメイトとの絆

 大学の寮でルームメイトに初めて出会った瞬間のことを今でも鮮明に覚えています。
"I am a native American."と、ニッコリ笑顔で自己紹介されましたが、当時の私は"native American"の意味も分からず「?」と思いながらも"I am Japanese"と返事をすると、喜んでくれたので安心しました。

 グランドキャニオンのあるアリゾナ州北部出身のKaren。冬休みには実家に誘ってくれ、休暇を一緒に過ごすほど親しくなりました。後期はお互い別の寮に引っ越して疎遠になったのですが、2008年のある日のこと、突然彼女からFacebookの友だちリクエストが!なんと3人目のお子さんの命名でご主人とかなりもめた結果、私の名前Hiromi(ニックネームはRomi)で最終的に落ち着いたとのこと。どうしてもそれを報告したくてFacebookで検索してくれたというのです。再会は果たしていないものの、Facebookでお互いの近況が分かる時代になりました。

「ペラペラ話せる」と「正しい英語を話せる」は別レベル

 日英会議通訳者として働いているので、大学で学んだことはすべて役に立っています。英文法の授業では、たくさんの例文の解説があり、例文がそのまま試験に出るということで丸暗記をした記憶がありますが、意外にもそれが役に立ったと思います。授業では、ちょっとしたニュアンスについて先生が説明してくださったのが印象的でした。高い英語力を持った日本人にはよく出会いますが、「ペラペラ話せる」と「正しい英語を話せる」は別レベルです。関西外大の国際的で開放的な雰囲気の中で多くを学ぶことができ、ラッキーだったなと思います。
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憧れの職業が現実のものに

 大学卒業後は英語講師として日本で6年間勤務しました。中学1年で英語の勉強を始めて以来、とにかく英語が大好きで、当然のように翻訳者・通訳者という職業にも憧れましたが、日本にいる間は実力も足りず、通訳学校にも通っていなかったので、どうすればデビューできるのかも分からないままでした。

 そんな中、大阪で知り合ったイギリス人男性と結婚し、それがきっかけで渡英。渡英後は、求人広告を見て応募したニュース翻訳の仕事で、ついに念願の翻訳業界にデビュー。その後、辞書編纂や出版翻訳などの機会にも恵まれ、翻訳者としては確立できましたが、会議通訳者としての夢は捨てきれず、独学で通訳の勉強を続けました。徐々に紹介などを通して通訳の仕事も増えるようになり、大学院で指導もするようになりました。今は会議通訳をメインとし、大学院や個人運営の講座で通訳訓練を提供しながら自己研磨も続けています。

 会議通訳をしていると、著名人にお会いできるのが醍醐味かと思います。稲盛和夫氏がオックスフォード大学で基調講演を行った際には、ブースからの同時通訳だけでなく、参加者との集いの会では近くで逐次通訳も担当したので直接お話しする機会にも恵まれました。稲盛氏のほうから3回も握手を求められて感激しました。暖かく、柔らかい手の感覚は、5年近く経った今も忘れられません。また、英国前首相キャメロン氏とは小さな会議室で膝が触れ合うほどの近距離で通訳したときはドキドキしました。聡明でとても明瞭な話し方をされるので通訳しやすかったのが印象的でした。

 昨年のASEM首脳会合(http://eumag.jp/event/g101818/)では、安倍首相や英メイ首相、メルケル首相、マクロン大統領など52か国の首脳が集まる会場を見下ろして、同時通訳をしたのも感動的でした。会議では、それぞれの首脳に3分程度の持ち時間があり、順に発言しますが、ほとんどは用意された原稿を早口で読み上げます。けれども、その原稿を事前に通訳者に渡してくれる国はほとんどないので、日頃から国際情勢に関して知識を蓄積し、当日は神経を集中させてスピーチを聞き、同時通訳しなければなりません。決してたやすくはありませんが、とてもやりがいのある仕事です。
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グローバル社会の発展に貢献したい

 「グローバル社会の発展に貢献したい」というビジョンを掲げて毎日の生活を送っています。通訳現場に出る以外に、大学院や個人経営のスクールを通して通訳養成も行っています。国も文化も言語も異なる人々が通訳を通してスムーズにコミュニケーションを取れるようになったり、また、教育を通して受講生一人ひとりが一歩ずつでも前に進むことができれば、結果的にグローバル社会の発展につながると思っております。また、語学とは直接関係はありませんが、犯罪の少ない社会、前科者にセカンドチャンスを与えられるような寛容な社会、すべての子供が愛情を持って育てられるような環境づくりのためにも貢献できればいいなと思っています。

語学力だけでなく、テクノロジーを最大限に利用していくこと

 これから、ますますグローバル化が進み、英語でのコミュニケーション能力があるかないかで見える世界がまったく異ってくると思います。一昔前までは、英語が使える職業というと、まず翻訳・通訳が思い浮かびましたが、今では一般社員や公務員でも英語でのコミュニケーション能力が必要とされることが増えました。ですから、どんな職業を考えていても「話す、聞く、書く、読む」という英語の4技能を高めると役に立つことでしょう。
 また、翻訳・通訳業界にもAI(人工知能)がますます導入されると考えられます。「同時通訳」というのは戦後に生まれた職業ですが、これまでの半世紀とは大きく変わることが予想されます。 この業界に入り、生き残るためには、語学力だけでなく、テクノロジーを最大限に利用していくことが大切です。最新の技術でどのレベルまで訳ができるのかを把握し、人間にしかできないサービスを提供することができれば、21世紀の通訳者として成功すると思います。 稲盛氏の著書にもありますが、「継続的に誰よりも努力をする」、そして判断に困ったときは「人として正しいことをする」の二つを後輩の皆さまへの送る言葉とします。

All the best!

掲載:2019年2月
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