古村 周三

  • 在マドリッド・SNJ日西文化協会(非営利法人 2021年2月に解散後、現在はプライベート団体)
    Kumasan Travel(個人経営)
  • 古村 周三
  • 1986年 外国語学部 スペイン語学科 卒業
古村 周三

奨学金留学に向けて一歩ずつ

入学当初から奨学金による留学を目指しており、スペイン語の運用能力を向上させるため、スペイン語会話クラブの活動に参加していました。スペイン語の勉強を見てくれるいい先輩方に恵まれ、関西イスパニア語連盟が主催する新入生暗唱大会で優勝することができました。しかし、学費を賄うためのアルバイトで多忙を極め、クラブを続けることができなくなりました。それでも、2年生の秋にクラブ主催のスペイン語弁論大会への出場を頼まれ、ここでも運よく優勝。弁論大会終了後、いつも怖い顔をして厳しい授業をすることで有名だったスペイン語学科の先生が通りかかり、にこっと笑って「おめでとう!水代にしかならないけど」と言って、私の手にそっと千円札を握らせてくれたことを懐かしく覚えています。
そしてこの頃、かねてより目標としていたスペインへの奨学金留学も決まりました。
 

本当にやりたいことを見つけるため、スペインへ

時期的に卒業も迫っていたことから、卒業後の進路についても考えざるを得ませんでした。しかし、興味のある職種も特になく、求人情報の条件だけを見て就職先を選ぶ日々。そこに、手に入れたスペインへの切符。表向きの目的は語学や文化を学ぶことでしたが、本当は「やりたいこと」を見つけるのが目的でした。

結果、音楽を通じて出会った友人たちとの強く熱い友情に、人生を大きく変えられることになり、「今から始めてヴァオリンのプロになろう」と決意。日本に戻った後、再びスペインへ渡るために、ひたすらアルバイトをして資金作りに励みました。そして、1年後、夢を携えスペインに舞い戻ったのです。スペインでは熱心にヴァイオリンを習い、マドリッド王立音楽院ヴァイオリン科の編入試験に合格。入学したものの、身体の故障でプロの夢をあきらめざるを得なくなりました。
 

観光業に身を置き、ありのままのスペインを伝える

他の職を探し、日系の旅行会社で観光客のための通訳ガイド業を始めました。在学時代よりスペイン語圏から日本を訪れる観光客を対象とした観光案内をしていたこともあり、この仕事には親しみがありました。それから約15年間、日本のほとんどの旅行会社による団体ツアー、個人ツアーの案内、そして各種技術通訳、日本のテレビ番組制作コーディネートなどの仕事に従事してきました。
日本の方々にスペインをもっと知ってほしいという想いとスペインを第二の故郷として愛する気持ちから、ビジネスは後回しでスペインのありのままを紹介することを最優先とした旅作りを実現させるべく、2000年に、マドリッド自治州政府公認SNJ日西文化協会を発足させました。スペイン文化旅行の企画・案内を中心に、日本ースペイン間の文化相互理解の一助となれるよう活動しています。
 

サイトを立ち上げ、治安情報を発信し続ける

1992年、スペインではオリンピックや万博が開催され、それに付随する形で治安が急速に悪化。旅行に来られる方々が次々と被害に遭われるのを黙って見ていられなくなり、早速「スペインなんでも情報リアルタイム!!」と称したホームページを立ち上げ、スペインの現状を発信し始めました。治安悪化はピークを迎えていましたが、私の鳴らした警鐘が日本にまで届き、日本政府や大手旅行会社、出版社が治安情報を人々に知らせるようになりました。さらに、スペインの警察当局まで対応に出たことで、盗難被害も徐々に減少していきました。
また、協会としては、マドリッドで安全に滞在できる協会付属会員専用宿舎メンバーズハウスの設置などの活動を行いました。

HPアドレス
スペインなんでも情報リアルタイム!!

 

心に残っているガイド

以前、全盲の方々のグループを伴ってプラド美術館を案内したことがありました。目の不自由な方々を相手に美術館を案内することは初めてで、私にとって全く未知の世界。絵画作品を自分の背にし、いつもならグループの皆さん一人一人の顔を見ながらお話をするのですが、この時は私も完全に両目を閉じてみることに。参加者と同じ環境に自分の身を置いて、感覚に集中しながら今の状況説明を始め、絵の説明は頭の中にその細部まで自分で描きながら、どんな人物がどんな様子で、どんな構図で描かれているのか、一つ一つ言葉による描写に変えていきました。一瞬戸惑ったのは、絵の中での「光」の捉え方を説明しようとしたときでした。全盲の方々の中には、光さえ感じ取れない人もいれば、強い光ならその存在を感じ取れる人もいるようで、これを全員に説明するにはどうすれば良いか、少し考え込んでしまったのを思い出します。つたないガイディングでしたが、最後のお見送りの際には、皆が私を囲み、私の手を握り、腕をとり、肩を抱き、私を離してくれず、涙ぐんでいる人もいて、嬉しさのあまり思わず涙がこぼれてしまいました。
彼らと一緒に過ごした時間は、普段健常者に囲まれて生活をしている我々が気づくことのない多くのことを気づかせてくれ、そしてたくさんの勇気と心の温かみをくれました。
 

コロナによる打撃をバネに、新しい試みに挑戦中

仕事も軌道に乗り、このまま退職時期まで快適に過ごせると思っていたところで、新型コロナ危機が勃発。コロナの長期的な影響により、法人としての文化協会を解散してプライベート協会として存続させ、コロナ禍の収束を待つ状態が続いています。いつでも旅行業を再開できるよう準備をしつつ、現在は新しい試みに力を入れています。2022年6月よりYouTubeで「今日のスペインニュース」「写真で旅するスペイン」などの動画番組を配信しています。チャンネル登録者も募集中です。スペインに少しでも興味のある方は、ぜひご覧ください。

YouTubeチャンネル
Madrid Kuma  

最高の旅を提供するため、高みを目指す

観光業は、多くの方々に夢や楽しみを提供する仕事であり、その楽しい時間をお客さんと一緒に共有させてもらうことができる素晴らしい仕事です。私は長年、すべての方にスペイン旅行を満喫してもらいたいと心から願い、そのために知識を磨き、経験を積んで、自分自身にできる最大限のことを行ってきました。文化協会が主催する観光業では、自分自身が求めるだけ限りなくハイレベルで良質の、他人には真似のできない良い仕事を実現することができると自負しています。

観光業に興味をもっている在学生の皆さんにお伝えしたいのは、自分が向かうべきゴールを探し続けてほしいということです。最初は経験を積むために旅行会社に就職されていいと思いますが、それを自分の人生のゴール地点とは決めつけないで、「観光業とはどうあるべきか」「それを実現するためには自分が何を学ぶ必要があるのか」そして「最終的にそれを実現する方法は何か」…といった疑問を持ち続けて行動してください。今後の皆さんの活躍を期待しています。
 
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